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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)11238号 判決

原告 朝山こと 崔孝姫

右訴訟代理人弁護士 貝塚次郎

被告 中村稔

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 長谷岳

主文

被告等は原告に対し別紙目録記載の物件を引渡すべし

訴訟費用は被告等の連帯負担とす

この判決は仮に執行することを得

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「一、別紙目録記載の物件(以下本件物件という)は原告がその肩書住所地所在の原告方住居の二階物置内にこれを保管し、右物置に鍵をかけて占有していたものである。

二、被告等は昭和四二年六月一五日午後八時ごろ前記原告方住居において原告不在に際し、ほか数名と本件物件を他に搬出することを共謀し同日午後九時すぎごろまでの間に、留守番をしていた訴外朝田寅義や原告の長女朝山明子に対し「俺達の家だから子供達は追い出す」、「荷物を持って行くから証人になれ」などと言ったりどなったり、又朝田寅義の身体をつかまえる等して朝田寅義、朝山明子両名の生命身体に危害を加えかねない気勢を示しその反抗を抑圧した上朝山明子に命じて物置の鍵を出させて物置の戸をあけ、原告の承諾がないのに物置の中から本件物件を持ち出し他に搬出し、本件物件に対する原告の占有を侵奪した。

三、よって原告は本件物件に対する占有を回収するため、被告等に対し本件物件の引渡を求める。」

旨陳述し(た)。

立証≪省略≫

被告等訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一、原告の請求原因第一項の事実はこれを認める。

二、同第二項の事実のうち被告等がほか数名の者と共同して原告主張の日時に本件物件を他に搬出した事実はこれを認め、その余の事実はこれを否認する。被告等は原告の代理人である朝山寅義の承諾を得て平穏裡に本件物件を搬出したもので原告の占有を奪ったものではない。」

旨陳述し(た)。

立証≪省略≫

理由

本件物件は原告がこれを肩書住所地所在の原告住居の二階物置の中に保管し物置に鍵をかけて占有していたところ昭和四二年六月一五日午後八時ごろから同日午後九時すぎごろまでの間に被告等がほか数名の者と共同してこれを他に搬出したことは当事者間に争がない。原告は本件物件の搬出は原告の不在中に原告の承諾もなく原告主張のような暴力的方法でなされたもので原告の本件物件に対する占有の侵奪である旨主張し、被告等はこれを否認し本件物件の搬出は原告の代理人朝田寅義の承諾を得て平穏裡になされたもので占有の侵奪ではない旨主張する。そこで本件物件の搬出がどのようにしてなされたかについて検討する。≪証拠省略≫によればつぎの各事実を認めることができる。昭和四二年六月ごろ原告と被告等およびほか多数の者の間には無尽契約に基づく債権債務関係があって原告は被告等およびほか多数の者に約束手形を振出していた。その約束手形のうちの数通が昭和四二年六月一三日の満期に不渡となったため被告等およびほか多数の者が同日原告とかけあうため原告方住所に赴いたが原告は数日前から不在で原告の親戚に当る朝田寅義が留守をあづかっていた。被告等は朝田に対し原告の所在を追求したが朝田は原告の所在を知らないといっていた。被告等およびほか多数の者は昭和四二年六月一三日の夜と同月一四日の夜原告方住所に泊り込み原告の所在の追求をつづけたり又原告に対する債権確保の方法を協議していた。朝田寅義は被告等のやり方が強引で勝手すぎると思い六月一三日の夜警察に連絡しパトロールカーが来たが被告等が適当に話してパトロールカーをかえした。そして同月一五日午後六時ごろに至って被告等は朝田寅義に対し原告に対する債権確保のため原告所有の動産類を他に搬出してこれを預って置きたいと申し向けた。朝田寅義は留守を預っている間にそのようなことになっては困ると考えたが被告等の要求が強硬なので強く拒むことができず被告等のなすがままに委せた。被告等は原告の長女である朝山明子(一六才、高校生)に物置の鍵を渡すように求めた。朝山明子は被告等ほか多数の者が二日前から勝手に原告方に泊り込んでいてそのやり方に多少なりとも恐れを抱いていたため鍵の提出を拒み切れず物置の鍵を被告等に渡した。被告等は物置の施錠を解いて本件物件をトラックを使用して同日午後九時すぎごろまでかかって搬出し被告夏山植子の住所に保管した。運搬に当って被告等はトラックに朝田寅義の同乗を求め朝田はトラックに同乗した。被告等は途中で朝田をトラックからおろし更に乗用車で原告方の隣りの食堂に朝田を連れて行きそこで乙第一号証の承諾書に署名拇印させた。以上の各事実を認めることができる。≪証拠判断省略≫以上認定の状況のもとになされた本件物件の搬出は原告の意思にも、又留守番をしていた朝田寅義の意思にも基ずかないでなされたもので本件物件に対する原告の占有を奪ったものと認めるのが相当である。乙第一号証はさきに認定した状況のもとに作成されたもので右認定を覆すに足るものでなく他に右認定を覆すに足る証拠はない。被告等は原告に対し本件物件を引渡す義務あるものである。

以上の次第で原告の本訴請求はその理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(原告の本訴請求のうち被告中村稔、同平田周子、同平川玉枝に対する訴(昭和四二年(ワ)第一一、二三八号)は昭和四二年一〇月一九日に提起され、被告夏山植子に対する訴(昭和四三年(ワ)第一二、六一九号)は昭和四三年一〇月二八日に提起されていて後者は本件物件の占有が侵奪された時から一年を経過した後に提起されている。ところで本件記録によれば原告は本件占有の侵奪者は被告中村、同平川、同平田の三名であると考えて同被告等に対し本訴を提起したところ審理の過程において被告夏山も共同の侵奪者であることが判明したため同被告に対し新たに本訴を提起しさきの訴訟と併合して審判することを求めたものであることが明らかである。このような場合においてはさきに提起された訴が提訴期間内のものであればこれと併合審判すべき後の訴は提訴期間経過後の提訴であっても適法なものとするのが相当である。)

(裁判官 中田早苗)

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